はじめまして、如春斎さん。-「西宮の狩野派 勝部如春斎 18世紀摂津の画人列伝」-

勝部如春斎《秋草に鶴図》養照寺蔵
勝部如春斎《秋草に鶴図》養照寺蔵
阪神香櫨園駅に程近い、閑静な住宅街に位置する西宮市大谷記念美術館。ここは実業家大谷竹次郎氏から西宮市に寄贈された貴重な美術コレクション、土地建物をもとに、1972(昭和47)年に開館した美術館です。開館当時、日本家屋であった建物は、1991(平成3)年の全面的な増改築工事を経て、美術館としての機能性を高めた現代の建築になりました。年間を通して、日本画、現代美術、デザイン、絵本原画等、偏り無くバランスよく取り上げた展示プログラムが魅力の一つです。今回は、こちらの美術館で現在公開中の展示、「西宮の狩野派 勝部如春斎 18世紀摂津の画人列伝」についてお届けします。

ゆったりとした時間の中、古き良き西宮を体感出来る白鷹禄水苑
今回の担当学芸員である枝松亜子さんが、勝部如春斎(かつべ・じょしゅんさい)を取り上げるきっかけとなったのは、2015(平成27)年に同館で開催された企画展「雪景色の系譜~その表現の歩み 近世から近代まで~」。こちらの展示も担当された枝松さんが、準備を進める中で如春斎の作品を知ったそうです。西宮出身でありながら、まだまだ不明なところの多い如春斎。しかし調査してみると、まとまった数の作品が確認できた上、作品の内容自体も見応えあるものでした。
大坂で狩野派を学んだ如春斎の作品は、構図や描きぶり等、狩野派の手法を踏襲し、確かな技法を感じさせます。豪華であるものの、派手さや我の強さといった圧迫感はなく、あくまで穏やかな上品さ。展示されている襖や屏風、掛け軸や巻物、その多くがなんと美しい状態で保存されていることか。一部の人にしか知られておらず公開される機会が少なかったことも関係しているのでしょうが、良い画材が使用されていること、そして何より大事に扱われてきたことが細部に見受けられます。

襖絵「秋草に鶴図」(養照寺蔵)
豊中市の養照寺本堂にある襖絵「秋草に鶴図」(養照寺蔵)。堂内の欄間に彫られた鶴の迫力に負けじと襖いっぱいに配された鶴にもご注目ください。この中に目のまわりが赤いハート型の鶴がいるなど、随所にみえる繊細な筆遣いをじっくりご覧ください。

「四季草花図/芦雁図」
「四季草花図/芦雁図」。向かって右(右隻)には春の花々、左(左隻)には秋の花々が。金の色といい、花々の色といい鮮やかさが特徴。裏表、両面をみることができるので裏側にまわると・・・

芦雁図
金屏風の鮮やかさとは一転、水墨画の芦雁図です。流れるようななんともあっさりとした描きぶりです。

「小袖屏風虫干図巻」(大阪市立美術館蔵)
こちらは「小袖屏風虫干図巻」(大阪市立美術館蔵)より。御簾がそよぐ姿におもわず涼風を感じます。無人だけれども今しがたまで誰かがいたような・・・。

「小袖屏風虫干図巻」(大阪市立美術館蔵)
こちらも同じく「小袖屏風虫干図巻」。この透明の屏風のようなもの、夏の着物地の「絽」や「紗」でできているのでしょうか。見たことがないということもあり、ミステリアスです。

様々な絵の下書きとなる画稿
今回様々な絵の下書きとなる画稿も展示されています。向かって右下、注目すると足の下書きが。

「鵜飼図」(神戸市立博物館蔵)
与謝蕪村と如春斎に接点あり!?こちらの「鵜飼図」(神戸市立博物館蔵)、なんと蕪村の書簡とともに表具されています。詳しいことはまだ不明ながら、蕪村との何らかの関わりを伺わせます。

現存する如春斎の代表作が一堂に会したこの展覧会。中でも興味を引かれるのが、「三十三観音図」。亡き妻の追善のため、如春斎が室町時代の画僧明兆作の「三十三観音図」を模写し、茂松寺に奉納したものだそうです。今回の展覧会ではオリジナルと如春斎の模写が並べて展示されており、じっくり見比べることができます。丹念に模写されてはいますが、如春斎の観音様の方がなんとも柔和で優しい顔立ち!また作品本体だけでなく表装にも注目してみてください。今回の展示と同じ状態のオリジナルを如春斎もみているようなのですが、表装については似せることなく、描き表具で仕上げられています。家族の追善供養というあまりにもパーソナルな背景をもつこの観音図は、依頼された作品とは考え難く、如春斎が自らの思い、自らの財力でなした作品であると思われます。それだけに、オリジナルとの違いには、如春斎の画人としての個性や感性だけでなく、人柄までもみえるような気がしてなりません。
「三十三観音図」(東福寺蔵)など
一番右端にみえるのが明兆の「三十三観音図」(東福寺蔵)。対して如春斎の観音図が並びます。彼の観音図がこうしてまとめて展示される機会もあまりないのだとか。オリジナルと見比べながら、一挙に鑑賞できる貴重な展示です。

知られざる郷土の画人に焦点をあてるとともに、彼とほぼ同時代に活躍した近隣の画人たちにも目を向けた今回の企画。彼らの存在は、多彩な画人を生み、キャリアを積ませるに足る経済的、文化的豊かさが西宮を含む「摂津」という地にあることを示しているのではないでしょうか。春の暖かな日差しに思わず出かけたくなるこの時期、さあ迷わず西宮市大谷記念美術館へ!
大谷記念美術館・エントランス
エントランスに入ると眼前に広がるナイスビュー!まず椅子に座ってお庭を眺めるのもよいですが、展覧会を鑑賞後、眺めを楽しみながら作品の余韻にひたるのもお勧めです。

西宮の狩野派 勝部如春斎 18世紀摂津の画人列伝
NISHINOMIYA COMMONS編集部
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