陶とガラスの中で森林浴!? 深呼吸したくなる展覧会「田嶋悦子展 Records of Clay and Glass」

田嶋 悦子さん
作品≪Records≫を眺める田嶋 悦子さん
「やきもの」というと何を連想しますか?身近なものでお皿や湯のみ、とっくりにお猪口、壺を思い浮かべる方が多いかもしれません(お魚の焼き物が浮かんだ方もいるかも...)。そんな「やきもの」に対するイメージを心地よく覆す展覧会、「田嶋悦子展 Records of Clay and Glass」が、6月10日(土)より西宮市大谷記念美術館で開催されています。
大阪出身で現在も大阪を拠点とする田嶋さんは、80年代より、伝統的な「やきもの」とは一線を画す表現で、日用品、工芸品とは異なる立体造形としての「やきもの」の可能性に取り組み続けています。立体造形というと何だかしゃちほこばって聞こえますが、田嶋さんの作品には、植物を思わせる有機的な独特のフォルム、ふれてみたくなるような質感があり、しなやかな生命力にあふれています。今回はその中から、特に気になる作品を中心にご紹介します。

会場に入ってまず目を奪われるのは、艶やかで強い赤が光を放つ≪Hip Island≫。窯に入る最大限の大きさで焼き上げられた、様々な陶製のパーツからなる巨大なインスタレーションです。出来立てほやほやといわんばかりの輝きを持ちながらも、驚くことに、実は30年前の作品なのだそう。1987(昭和62)年に開催された新進気鋭の現代美術作家の選抜展「アート・ナウ」(兵庫県立近代美術館)に出品された作品を、インスタレーションとしてその時ぶりに再現展示したとのこと。さらりと書いてしまいましたが、作品の様々なパーツは倉庫の奥深くに眠っていて、それらをみつける作業はまさに発掘だったとか。

田嶋悦子さんの作品
田嶋悦子さんの作品 ≪Hip Island≫
まるで陶製のジャングル。空間に収まることなく、広がろうとする作品の大きさは、未来に希望を抱き、より広い世界を目指すデビュー期の田嶋さんの心を映しているようです。

同じフロアにある作品≪Flowers 13≫は、≪Hip Island≫とは対照的に最近の作品となります。床にすっくと立ち、空に向かって高く伸びる花畑のよう。この作品でじっくりみていただきたいのは、陶の花びらのような部分。よくみるとひびが黒く走っています。こちらは「やきもの」でよくみられる貫入という手法によるもの。陶磁器のつるりと光沢ある表面は、もともとの素地に釉薬をかけて焼くことでうまれます。焼き上がった陶磁器の温度は徐々に下がり、それと共に収縮していきますが、素地と釉薬の収縮率の違いが、釉薬部分にひびを入れます。こちらの作品ではその部分に墨汁をいれているのだそう。でもよくみると黒くないひびも走っています。これは墨汁をいれた後もひびが入り続けているから。焼いた後も進んでいく、焼いたからこそうまれる。この作品は、時の流れをその身に刻みながら、変化し続けているのです。

田嶋悦子さんの作品
田嶋悦子さんの作品 ≪Flowers 13≫
次の会場に向かうと、田嶋さんを代表するシリーズ、≪Cornucopia≫が展示されています。Cornucopia(コルヌコピア)とはギリシャ神話に登場する「豊穣の角」。精神的な豊かさという意味を込めて、この言葉を名に採ったそうですが、口のなかでコロコロ転がるような愛らしい音の響きにもひかれたのだとか。
「やきもの」の表面を覆うガラス質の釉薬と素地になる土。発想を転換し、その組み合わせをガラスと陶という素材として改めて捉え直し、新たな創造を目指した作品群となっています。

田嶋悦子さんの作品
田嶋悦子さんの作品 ≪Cornucopia≫
こちらのシリーズでは、床面に直に作品を置くスタイルから離れ、あえて伝統的な工芸作品のように台座に作品が設置されています。安定感ではなく、意識しているのは作品と設置面との緊張感。トウシューズで立つバレリーナの爪先さながら、張り詰めたその足元もよくご覧あれ。

 最後にご紹介するのは今回の展覧会に向けて創られた新作≪Records≫です。会場に足を踏み入れると、なぜだか新鮮な野菜畑に足を踏み入れたような気になりました。みずみずしい植物が「おぎゃー」と芽吹いているような不思議な光景です。陶器と板ガラスを組み合わせたこの作品、近づいてみると陶の部分に葉っぱの模様が刻まれています。これらは紫陽花の葉。このインスタレーションは100個以上のパーツからなりますが、ほとんど同じ葉を用いることはなく、直に型を取っています。葉脈の一本一本までもが写し取られ、焼かれることで、半永久的にそれぞれの葉の生きた痕跡が留められています。

田嶋悦子さんの作品
田嶋悦子さんの作品 ≪Records≫
見る人や角度によっては虫が空に向かってはばたく瞬間にもみえるかも。専業農家に生まれ自然と密接につながりながら育った田嶋さんの作品は、いつも植物や生き物を思わせます。

デビュー期から最新作までを網羅した今回の展覧会、それぞれの作品に、直接、植物が用いられているわけではないのですが、作品が持つ明るい生命力、清々しい雰囲気に接していると森林浴をしているような不思議な気持ちになりました。 熱を加えることで、何度も生まれ変わるガラス。ガラスのように何度も再生しないものの、時間の流れを刻み、自身に触れるものの痕跡を記録し得る陶。異なる時間軸を生きるそれぞれの素材が織り成す世界に是非足をお運びください。

田嶋さんがガラスを扱う原点となったブローチ
田嶋さんがガラスを扱う原点となった、ブローチ
取材当日は作家の田嶋さんのお話を伺うことも出来ました。このブローチ、ガラスを扱う原点となった作品だそうです。

「田嶋悦子展 Records of Clay and Glass」
NISHINOMIYA COMMONS編集部
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