【とおかし図鑑】Vol.05「菓一條栄久堂吉宗」
~長年守り続けたあんとともに~

「菓一條栄久堂吉宗」(羽衣町)の「とおかし」
「菓一條栄久堂吉宗」(羽衣町)の「とおかし」。箱の中にかわいい上生菓子が2つ入っています

「とおかし」とは、西宮神社の十日参り(4月〜翌年3月)の際に配られるお菓子のこと(※1月は除く)。
2017年度から始まった「とおかしプロジェクト」によって、西宮市内の11の和菓子店が月替りでとおかしの制作を担当することになりました。それぞれのとおかしは、毎月10日限定で各店舗でも販売されています(※詳しくはこちら)。

この連載「とおかし図鑑」では、市野亜由美(ライター/西宮在住)が、それぞれのお菓子と和菓子店の魅力に迫ります!
第5回で取り上げるのは「菓一條栄久堂吉宗(かいちじょうえいきゅうどうよしむね)」。同店の当番月は2018年9月、配布されたお菓子は「境内・鯛」です。

夙川でお菓子一筋40年以上

菓一條栄久堂吉宗
レトロな雰囲気のビルにある「菓一條栄久堂吉宗」
阪急夙川駅のすぐそばに、菓一條栄久堂吉宗がオープンしたのは40年ほど前のこと。「先代が大阪の栄久堂吉宗から独立する際、『菓子作り一筋に励む』との思いを込めて、店名に『菓一條』と付けたんです」と話すのは、同店の二代目で代表取締役を務める吉川壮一さん。その名のとおり、素材と製法に妥協を許さず、和菓子を作ってきました。

「あん炊き10年」国産小豆を使った自家製あん

菓一條栄久堂吉宗
10代で和菓子の世界に入った吉川さん。「あん炊きは、体と頭で覚えるんです」
こだわりの一つが国産小豆100%の自家製あん。「和菓子は、あんで味が決まります。材料が良いことはもちろん、製あんの技術が一流でなければ、おいしくなりません」と吉川さん。和菓子職人の世界では、「あん炊き10年」と言われるのだとか。

「当店で、若い和菓子職人が最初に学ぶのはあん炊きです。炊き方を覚えるのに最低でも一年。本当に良いあんを炊けるようになるには、さらに時間がかかります。さまざまな条件に影響されて、レシピどおりにはいかないので、ときには勘も大切です。新人職人には、困ったときは『私(吉川さん)に聞くより、目の前のあんに聞くように』と指導しています」

美しい上生菓子の数々

菓一條栄久堂吉宗
1月末に店頭に並んだ上生菓子
2〜3週間ごとにラインナップが変わる上生菓子。季節によって、その趣が絶妙に変化していきます。 たとえば、1月末頃なら今年の干支「亥(いのしし」や、「福豆」や「赤鬼」といった節分のモチーフなどが並びます。

さらに、特筆すべきは、品揃えの豊富さです。常時8〜12種類の上生菓子が用意されていて、お客さまに、いつも違ったものを選べる楽しさを感じてもらえたらと、意識されています。お茶会で供されることも多く、たくさんの常連さんが飽きることなく通い続ける理由が垣間見えます。

とおかしは白金時あんとこしあんが楽しめる2種セット

話題はいよいよとおかしに。菓一條栄久堂吉宗のとおかしは、西宮神社の風景を描いた上用饅頭と、縁起物の鯛をかたどった練り切り。
「8割くらいは女性のお客さまですし、箱を開けた瞬間に『かわいい!』と思ってほしくてデザインしました。やっぱり上生菓子は感動がないと」(吉川さん)
菓一條栄久堂吉宗
「境内」は上用饅頭(じょうようまんじゅう)。中央に描かれているのは西宮神社の鳥居
「境内」は白金時あん入り。中央には焼印で描かれた西宮神社の鳥居が。そして、紅は本殿、青は池、緑は松林を表しているそう。吉川さんは境内南側からの眺めが好きだそうで、その風景を表現されました。
菓一條栄久堂吉宗
練り切りで作られた「鯛」。うろこやひれの部分は型押しではなく、一つひとつが手描き
一方、「鯛」の中にはこしあんが。生き物の形を作るときには「かわいらしく、マンガちっくに作れ」というのが先代譲りのこだわりだとか。
「本物をじっくり見るのは大切ですが、忠実に作ったのではダメなんですよね。もともと鯉をかたどった菓子を販売していたので、『鯛』はそこからアレンジしました。こうした生き物を模した菓子を作るのは、とても楽しいですね」(吉川さん)
目玉を少し下のほうにつけるのが、かわいく見せるコツだとか。ちょっとおとぼけな印象に仕上がるそうです。

喫茶で楽しむ和スイーツ

菓一條栄久堂吉宗
卵と生クリーム、ミルクを使用した黄身あんを包んで焼き上げた「吹上(ふきあげ)」も人気です
和菓子販売とともに甘党喫茶も併設している同店。伝統的な和菓子の技術を大切にしつつ、さまざまなメニューを提供しています。
菓一條栄久堂吉宗
喫茶は昭和初期にタイムスリップしたような、懐かしさを感じる空間
喫茶では、和菓子屋ならではの和スイーツを、サイフォンコーヒーと一緒にいただけます。そのほかにも、赤飯御膳、みつまめ、ぜんざいなど、メニューは多彩です。
「喫茶でもおいしさへのこだわりは変わりません。例えば、人気メニューの『小倉ホットサンドトースト』に使っているあんこと、ぜんざいのあんこは違うものなんです」と吉川さん。そんな裏話を聞いては、食べずにはいられません。
菓一條栄久堂吉宗
栗・餅・大納言小豆のハーモニーが素晴らしい「栗ぜんざい」
菓一條栄久堂吉宗
同店の夙川工房で作られている自家製ケーキ。「和栗のモンブランケーキ」は栗の風味を堪能できます
「とおかしを通じて他の和菓子店の方と話す機会が増えました。やはりどの方からも職人のこだわりを強く感じます。西宮という街は、本物を作ればわかってくれるお客さまが多いです。中途半端なものを作っていたら生き残れません。だからこそ、西宮には、全国に通用する和菓子の名店がたくさんあるんです。とおかしを通じて、西宮は和菓子が盛んだというイメージをどんどん広めていきたいです」
西宮と和菓子のこれからについて語る吉川さんの真剣な眼差しが目に焼き付いています。


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「毎月十日はとおかしの日」。 西宮のスペシャルな銘菓を楽しめる特別な機会をお楽しみください。
※11店舗の「とおかし」は、こちらの紹介リーフレット(PDF)でご覧いただけます。

市野亜由美
市野亜由美
西宮市在住のライター。"どこへでも実際に行ってみたい派"です。読者に「私も!」と思ってもらえるような、再現性のある情報を届けられるとうれしいです。好きなジャンルは、食べものやアート
NISHINOMIYA COMMONS編集部
ライター・市野亜由美
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